三河湾国定公園のオーシャンビューを背景に、愛知万博迎賓館茶室香流亭の設計で知られる 堀尾佳弘氏に鉄筋コンクリート作りの和風建築を作っていただきました。 「たらそ」のコンセプトは、女性1人でもくつろげる癒しの空間。 器・家具・山野草・暖・香り・音など、一つ一つの要素を活かして、 本当にくつろげる癒しの空間とは何かを考えてみました。 水出コーヒーや紅茶、ハーブティーだけでなく、 フルーティーな生酒や、女性に優しい焼酎なども各種取り揃えております。 お食事も四季折々、工夫させていただいております。 時間が止まっているような時空間と庭園のような借景が、皆様のお越しをお待ちしています。 |
たらそ の開店に至るいきさつ、コンセプトなどについて、簡単に記させて頂きたいと思います。
人には生まれ育った環境への回帰願望があると言われます。私ごとで恐縮ですが、私は鳥取の出身で、子供の頃から山陰海岸国定公園の切り立った岩場に挟まれた石英砂の浜に露営したりして、何日間も釣や素潜りに埋没するなどの時間を無類の楽しみと感じてきたものでした。その意味では たらそ は私の少年時代からの夢を実現したというだけの話なのですが、しかし人は誰でも、母なる海に抱かれながら自然の中に身を任せることで癒されたいという願望を大なり小なり持っているものではないでしょうか?
今、 たらそ が建っているこの吉良町宮崎の地に巡り会い、山を切り開いてこの建物が出来るまでには、実に7年という歳月を要しました。愛知県じゅうの海岸線を隅から隅までまわってみて、これは!という風景3ヶ所に絞ることができました。この吉良町宮崎海岸の、この傾斜地はその一つでした。浜名湖にも似た、この箱庭のような景観を借景に、時間を忘れて佇むことができたら・・。それは本当に申し訳ないような贅沢な空想でした。しかし実際には、それを実現することは大変で、三河湾国定公園内であるためのハードルもあって、ハードルを一つ一つクリアしていくのに7年の歳月が掛かったのです。
その間、安城の堀尾建築研究所が一貫してサポートして下さいました。堀尾佳弘さんとは、私が建てた最初の建物を20年前に建造して以来のお付き合いですが、この間に堀尾さんは 2005 年の愛知万博の、天皇陛下がお泊まりになる迎賓館(茶室)を手がけられるほどの建築家になられました。彼の専門は元々茶室などの数寄屋建築で、私どもの最初の建物もそうした日本家屋すが、この たらそ も彼によれば和風建築なのだそうです。その違いは、建材がコンクリートか木造かではなく、洋風建築は面で造り和風建築は梁や柱で造る、ということで区分けされるのだそうです。堀尾さんは建築作家アイデンティティーの強い方なので、限られた予算の中で少しでも良いものを創りたいと、いろいろ工夫して下さいました。 たらそ のカウンターの「たも」の板も、某有名ホテルで使われているカウンターの板と兄弟なのだそうです。弟というだけで、驚くほどの安価で入手して頂いたのも、その一つの表れです。「堀尾佳弘建築研究所」のお仕事に関心のある方は、ホームページを開いてみて下さい。
たらそ は、堀尾さんだけでなく、実に様々な方のお力に預かっています。いつもみずみずしい山野草の鉢植は、洋画家でもある安城の野村加代子さんにご無理言って隔週ごとに替えて頂いていました。最近ではその魅力に取り憑かれて、殆どの鉢を私自身が作っていて、野村さんから購入した鉢は数点しかなくなっていますが・・・・。 たらそ で使っている器の半分位は、その娘さんである野村亜矢さんの作品です。コーヒーを飲み終えた後も、テーブルの上に素敵なオブジェが私たちの心を和ませてくれています。ボタンを使った砂糖入れなんかも最高でしょう?!加代子さんと亜矢さんの作品に関心のある方は、是非、安城にあるお二人のギャラリー(「花と器 野むら」 0566-79-0012 )に足を運んでみられることをお薦めします。
家具はいろんな処で購入しましたが、名古屋大須の豊田たんす店さんが一番のお切り入りです。「豊田たんす店」のお仕事に関心のある方は、ホームページを開いて見て下さい。新聞にも何度か紹介されている豊田社長さん自らが造られたチェンバロやパイプオルガンも展示してあります。数人だけの小さな職人工房を探し当てながら、いい作品だけを扱っておられます。 たらそ の一押しの家具は中央のボードです。このボードを観ているだけで、独りで1時間は呑めるなーという感じがして、わくわくしてきます。遊びや無駄がある分だけ、観る者の心を和ませてくれます。その両脇にある小さな椅子にも、是非座ってみて下さい。こんなに小さな椅子なのに全てを包み込んでくれる椅子って、他に出会ったことがありません。中二階にも豊田たんすさんの家具が何点かありますが、ライブの時か、ご予約の方にしか、開放できないのが残念です。
後先になってしまいましたが、 たらそ のコンセプトは、女性1人でもくつろげる癒しの空間です。そのために器、家具、山野草、暖、香り、音など、一つ一つの要素を活かして、本当にくつろげる癒しの空間とは何か、時間を掛けて考えてみました。「女性1人でもくつろげる」と敢えて書いたのは、文字通り女性だけを対象としているという意味ではなく、「カウンターで女性が1人で安心してお酒を飲むことができる」ようなお店でなければ本当の意味で「安心」とか「癒し」とかは言えないなと思っているからです。つまり「女性1人でも・・」というのは私達の一つの目標なのです。そのコンセプトを現実化するために、私は、沢山の方々の意見を参考にしながらも、あくまで私個人の好みという物差しに、こだわってみました。
私自身がお客として入ってみたくなるような風景と建物。私自身が座ってみたいと思う椅子だけを揃えて、数あわせのための椅子は一つとして置かない。家具や器の一つ一つも私の趣味で全て揃えましたし、CDやSDCD・DVD・LDの一枚一枚にしても、ジャンルに拘らず、 たらそ で流したいものだけを厳選して流しています。
スタッフも沢山の応募者の中から、経験のあるないしに関係なく、癒しのオーラや、たらそを愛してくれているかどうかという選考基準で厳選して採用しています。何が癒しの要素かというのは極めて主観的な判断ですが、あくまで私個人の好みで妥協せずに選ばさせてもらいました。
今ここで私が、何をお伝えしようとしていることを明確にするために、 20年前の堀尾さんと出会った時のエピソードのことを少しお話しておきましょう。当時、仕事場を建造したいと考えていた私は、「自分に合った設計士を探す方法は街中を歩き回って、一番気に入った建物を選び、そこを建てた設計士を紹介してもらえば良い」という助言を、ある方から頂いたことがありました。その助言を伺った瞬間に、私の脳裏の浮かび上がってきた建物が一軒あったのです。早速、その家を尋ねてみると、なんと、その家が堀尾さんの設計事務所そのものだったのです。私は当然、依頼主の側ですから、せいぜい二つ返事くらいで引き受けて頂けるだろうと思っていたのですが、予想に反して堀尾さんからは意外な注文を付けられたのでした。「人が家を建てようとする時というのは、人生の中で一つの重要な節目であり、これまで、そしてこれからどういう生き方をしようとしているのかを知らずに、私はお引き受けでない。施主の生き様や文化を知らなければ、場合によっては建物と置物、あるいはライフスタイルとがちぐはぐな家になってしまう。だから私の設計した建物をあなたに一緒に見て回って頂きたいし、貴方の住まいも見せて頂きたい。一緒にお酒も飲み交わしたい。その上で引き受けるかどうかの見極めをさせて頂きたい」旨、言われたのです。この話を聞いてある種のショックに似た感動を覚えたのを昨日のことのように記憶しています。私はそれだけで、逆に、堀尾さんにお任せしたい意を強くしたものでした。ただ建てればいいのではなく、5年後 10 年後という時間の流れの中で、住む者のアイデンティティーというか一貫性というものを考えなければ、本当に良い家を創っていくことは出来ないのだ、ということを私は堀尾さんから教わったのでした。
たらそ はこうした意味で、私が信頼する沢山の方々の意見を参考にしながらも、あくまで私個人が確かだと思う物だけで統一させることを大切にしてきました。その結果として、できあがった たらそ が良くも悪くも たらそ 自身、もっと言えば私自身なのです。「それで宜しかったら、またいらして下さい」ということで良いのではないかと思うのです。私自身は、飲食業に関しては全くの門外漢で、これまで客としての立場からでしかお店というものを考えたことはありません。しかし、あくまでお客さんの立場で、素人の発想で、パーソナルに拘れるだけ拘ってみたほうが、個性のはっきりした手造りの空間になるとのではないか。そういう意味で、私自身の好みということを大切にして来たのです。
勿論、私は単なるオーナーでしかありません。実際の運営はそのスタッフに任せてある訳ですから、私が準備したキャンパスをどのように色づけし、味付けしてくれるかは、ひとえに全スタッフの個性に掛かっているのは言うまでもありません。幸いにして、本当に優秀な方が沢山集まってきてくれました。町並みから離れた観光地ということもあって、忙しい時は忙しいけれど、一旦天候が崩れると本当に閑散としたお店になります。その分、経営的な苦労も多く、スタッフにはいろいろ苦労を掛けてきましたが、みんなたらそが大好きで集まってくれたスタッフばかりです。
最後になりましたが、 たらそ の音楽について少しだけ触れておきます。個人的な経験で恐縮ですが、私はかつて名古屋フィルハーモニー交響楽団の第一チェリストの杉浦薫さんに個人的に師事したことがあります。結局私自身のチェロはものにはなりませんでしたが、その時の経験で、弦楽器は間近で胴体で体感するものだなと実感したものでした。杉浦さんとはその時以来のお付き合いで、今回 たらそ で定期的な演奏をお願いできることになったのは、本当にラッキーなことでした。みなさんもこんな間近で一流の演奏を味わえる機会を、どうかごゆっくりご堪能下さい。
オーディオ機器は自然に近い音を、静かにかつ部屋の隅まで同じ音量で流せるようにというコンセプトで、英国のE . A . R社の真空管アンプと CD 再生機、英国N . A . S社のアナログプレーヤー、そして独のデューベル社の無指向性のスピーカーを4チャンネルCD(スーパーオーディオCD=SACD)用に4本組みました。私は子供の時から生音に接する機会は多かったので耳は良い方だと自認していますが、オーディオ機器の組み合わせに関しては素人ですから、もっぱら幸田町のプレイバッハ(高橋:0564-63-5552)というオーディオ専門店の提案に素直に従ってきました。結果としてとても良い組み合わせになったと満足しています。もっと詳しいことをお知りになりたい方は、資料をスタッフに申し出て下さい。
平成20年正月